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最高エネルギー宇宙線の観測(簡易版)

1.宇宙線とは

 宇宙線とは一般に、宇宙空間を飛び交う電荷を持った粒子のことを言い、主に宇宙線は陽子であることがわかっています。およそ100年前に、高度が高い方が放射線量が高いことをオーストリアの研究者ヘスが発見したことが、宇宙線の発見のきっかけでした。

 宇宙線には幅広いエネルギーのものがあり、最高エネルギー宇宙線と呼ばれるものでは、世界最大の加速器CERNで到達できるエネルギーよりも8桁程大きいエネルギーを持っており、最高エネルギー宇宙線と地球大気原子核との衝突は人類の持つ加速器では実験できないレベルとなっています。

2.最高エネルギー宇宙線

 最高エネルギー宇宙線は、滅多に地球に降ってきません。山手線の内側の範囲に1年に1個降ってくる程度です。この滅多に降ってこない最高エネルギー宇宙線の起源は何か、また、エネルギーがどのくらい高いところまで存在しているのか、という謎を解明することと、前述の通り、加速器では到達できないほどの高エネルギー衝突実験としての意義を持った最高エネルギー宇宙線の観測は、以下の通り、知的好奇心をくすぐるものとなっています。

・起源は何か

 宇宙線は電荷を持っているため、磁場で満ちた宇宙空間を直進することはありません。そのため、到来方向を見ても宇宙線の起源はありません。しかし、最高エネルギー宇宙線までエネルギーが高いとほとんど曲げられず、飛来方向とその起源が一致すると予想されます。もし宇宙線がどこから来ているかがわかれば、そのエネルギーまでどのような機構で加速されているのか、という謎の解明につながるとともに、その宇宙線を用いた天文学が新たに始まることになります。光を用いた天文学と重力波を用いた天文学に並んだ、宇宙から降り注ぐ粒子そのものを用いた宇宙線天文学だけでしか見ることのできない宇宙の姿があるかもしれません。

・どのくらいのエネルギーまであるか

 最高エネルギー宇宙線がどのくらいのエネルギーまで存在しているか、という部分については、GZKカットオフと呼ばれる予測があります。GZKカットオフとは、あるエネルギー以上になると、急に地球への宇宙線の飛来数字は激減する、という予測です。これは、あるエネルギー以上の宇宙線からは、宇宙空間の背景放射が超高温に見え、全然進めない、という相対論から導かれる予測です。

 しかし、日本の実験ではGZKカットオフを超えるエネルギーを持った宇宙線を観測した例もあります。GZKカットオフを超える宇宙線の存在がもし確かになれば、最高エネルギー領域での相対論が間違っている可能性や、背景放射がいま知られているより低温の可能性など、今までの常識を覆す発見となるのです。

・衝突実験

​ 最高エネルギー宇宙線が大気原子核と衝突すると、二次粒子が生成され、それがねずみ算的に粒子を生成しシャワーのように粒子が地表に降り注ぎます。(これを空気シャワーと呼びます。)衝突によってどのような二次粒子が生成されるのかを見ることは、素粒子物理学の理論を検証するのに欠かせない実験になります。

 特に、重たい粒子を生成するには、その重さに相当するエネルギー以上の衝突を起こさないといけないため、新たな粒子の発見という目的では、人類の持っている加速器では到達できないエネルギーの衝突が起きる最高エネルギー宇宙線と大気原子核の衝突は頻度は少ないものの貴重な観測対象となっています。

3.テレスコープアレイ(TA)実験

 このように、多くの可能性を秘めた最高エネルギー宇宙線。山手線の内側に1年に1回降ってくる程度、と頻度は少ないですが、1回の宇宙線と大気原子核の衝突をきっかけに、シャワーのように大量の粒子が広がって地表に降り注ぎます。粒子がガンマ線を生成するなどを繰り返す中でエネルギーを失っていくため、大元の宇宙線のエネルギーが大きければ大きいほど、大量の粒子が広がって降るシャワーのようになります。

 この広がって降ってくる粒子を地表で観測するのと同時に、このシャワーによる大気の蛍光を望遠鏡で観測しているのがテレスコープアレイ(TA)実験です。

 実験場所はアメリカユタ州にある砂漠。現状700平方キロメートル(山手線の内側の面積のおよそ7倍)に検出器500台の地表検出器を並べ、そのサイトを囲むように望遠鏡が3つ、という体制で観測を行っています。今までの9年間の観測で、最高エネルギー宇宙線がよく到来してくる方向(ホットスポット)の存在を発見しつつある状況で、これをより確かなものにするために、現在観測面積を4倍に広げる作業を行っています。

 最高エネルギー宇宙線の起源がわかれば、宇宙線発見から100年間の謎が明らかになり、宇宙を見る新たな目を人類が持つことになります。

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