ニューロンとシナプスの動作を再現ースピントロニクスー(科学絵本)
ある日、ハカセに太郎くんが、友達になれるロボットを作って欲しい、とお願いしました。
ハカセは今普及しているディープニューラルネットワークを用いた人工知能(じんこうちのう)ロボットの製作にとりかかりました。
ハカセは、完成したロボットを太郎くんにプレゼントしました。
太郎くんは、ロボットに「小太郎」と名付け、楽しくはしゃぎました。小太郎もすぐに太郎の顔と名前が分かるようになり、一緒に遊べました。
しかし、小太郎から話しかけてくれることもパターンが決まっているし、小太郎は充電(じゅうでん)がすぐに必要で、友達のように思えない、という問題がありました。
太郎くんは、ハカセにお願いをしました。
「もっと人と同じようなロボットの友達が欲しいんだ。」
ハカセは、今の人工知能技術(じんこうちのうぎじゅつ)と人間の脳の違いを説明してあげました。
「今の人工知能(じんこうちのう)は、人間の脳が、脳に入ってきた情報(じょうほう)を処理(しょり)するしくみをまねているんだ。だから、太郎くんの顔は見分けられるけど、自分から始める行動は、最初に決めた範囲(はんい)でしかできないんだ。
人間の脳は、ニューロンという細胞が沢山あって、それらの電気信号のやりとりでいろいろな情報を処理したり記憶しているんだ。元となるパーツの動き方が人工知能とは全然違うんだよね。。。」
そうは言っても、太郎くんのため、ハカセはニューロンを再現した方法でのロボットを作れないか、と調べていました。
すると、ニューロンとシナプスの動きを再現した「スピントロニクス素子」の開発に成功した、という研究成果を発見しました。
スピントロニクスとは、電子の電気を持つ性質だけでなく、磁気を生むスピンの性質を利用したものです。
電子のスピンも操ることで、ニューロンやシナプスと同じような、信号の頻度(ひんど)や時間差に関する反応を再現できた、ということです。
さっそく研究成果をもとにスピントロニクス素子を作成し、
天才であるハカセはすぐに、人間の脳と同じように大量につなぎ合わせました。
人間の脳と素材(そざい)は違えど、機能が同じ脳の完成です。
スピントロニクスという言葉が気に入った太郎くんは、作ってもらったロボットを「スピン」と名付け、楽しく遊びました。
行動や反応、記憶力までもがまるで人間と同じスピン。太郎くんは本当の友達として何日も一緒に過ごしました。
外出も一緒にすることもありました。
ロボット スピンも、心というものを持ち、太郎くんといつまでも一緒にいたいと思うようになっていました。
しかし、
ある日、太郎くんはスピンとケンカをし、棒で頭を叩いてしまいました。
すると、スピンの脳を構成している材料が、横からあふれ出てしまいました。
完全に動きが止まってしまったスピン。
太郎くんはハカセにスピンを直して欲しい、とお願いしました。
しかし、ハカセは太郎くんにこう言いました。
「スピンはもう治せないよ。太郎くんと一緒に楽しんだ思い出は、もう戻せない。まだ記憶というものについてよくわかっていないからね。
記憶が人を作り上げてるとも言えるんだ。
一緒に過ごした思い出のないスピンは、もう太郎くんの知っているスピンじゃないよ。
それに、スピンには、人間の脳と同じ機能を持たせたんだ。きっとすごいつらかっただろうな。。。」