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アルコール消毒と次亜塩素酸とイソジン 科学による日常エンタメ化計画

更新日:2020年8月13日

こんにちは。

 本サイトは、多くの人が科学をエンタメとして楽しめるようにしよう、という計画、「科学エンタメ化計画」として、絵本や写真館、ブログ等を作成しています。


 科学をエンタメとして捉え、垣根の低いものだと多くの人に思ってもらうことの先には、一つとして、

科学が実はどれだけ生活に密着しており、科学的な思考がどれだけ生活を豊かにするのか理解する人が増える、

ということがあります。


 特に科学的思考ができる人が増えれば、その中で、優秀な科学者が出てくる可能性が高まる、という面もあれば、誤った情報等によるおかしな人々の行動が減る、という面もあります。これは、今回のコロナウイルスの流行の中で、非常に求められるものであり、(特に政治家やメディアに)科学的思考ができる人がどれだけいるのか、というのがそれぞれの国の明暗を分けているのだと思います。

(科学エンタメ化計画の目指しているのは、上記もそうですが、主に、科学の垣根を下げて、科学に親しむ人を増やし、基礎研究を含む科学がエンタメとして価値を持ち、科学への資金の流入量を増やそう、というものです。

詳しくは以下の記事をご覧ください。



 そこで、今回の記事では、科学をエンタメ化するステップは飛ばして、アルコール消毒や次亜塩素酸、イソジンがどのようにウイルスに効くのか、まとめてみたいと思います。(エンタメ化のステップとしては、アルコールとウイルスの絵本を構想中です。エンタメとして、説明は極力少なく、ストーリー性をもたす工夫を検討中。)


1.アルコール消毒

 まず、今ではあらゆるところに設置されているアルコール消毒についてです。

「アルコールの構造と性質」の話から、「溶けるとはどういうことか」という話を経由して、「なぜそれでウイルスを倒せるのか」という話をしていきます。


・「アルコールの構造と性質」

多くのアルコール消毒は、エタノールが70%以上の濃度になるよう水で希釈された成分になっています。

エタノールの構造式はこちら。(C2H5OH)

エタノールの構造式
エタノールの構造式

 この構造によってエタノールが持っている性質をまずはまとめると、

この、C2H5(左側部分)という部分が疎水性で、OHという部分が親水性です。言い換えると、水に溶けにくい部分と、水に溶けやすい部分を持っているということです。

そのため、エタノール自体は水に溶けることができ、さらには、水が溶かすことができない脂質とかをエタノールは溶かすことができます。

 洗剤や石鹸もエタノールと同じように親水性の部分と疎水性の部分を併せ持つため、食器などの脂汚れを、疎水性の部分で包み込み、親水性の部分のおかげで水と一緒に流れていくのです。

 なので、食器洗いで脂のヌメヌメを取りたいときは、ゴシゴシするよりも、しっかりと洗剤の泡に脂も溶かしてあげることを意識すると良いでしょう。


・「溶けるとはどういうことか」

 さて、エタノールが水に溶けるとか、脂質は水に溶けないだとか、書きましたが、「溶ける」という状態を理解しないと、本質の理解にはなりません。溶けるとはどういうことでしょうか。

(ちょっと詳細に書くので、次の「なぜそれでウイルスを倒せるのか」まで飛んでも大丈夫です。)


 水はH2Oという分子式で以下のような構造をしています。

水分子
水分子の構造式

H:水素は中心にプラスの電気を持った陽子を1個持っています。

O:酸素は中心に8個の陽子を持っています。

これらはそれぞれプラスを打ち消す分のマイナスの電気を持つ電子を持っているので、

本来電気的にプラスでもマイナスでもありません。

これらが電子を共有することで、電気的に結合しています。

(これを共有結合と言います。)


 この共有された電子は、水素の中心にある1個の陽子よりも、酸素の中心にある8個の陽子の方がプラスの電気が大きいので、酸素側に少し寄ります。

要するに、H2Oは少しプラスのHと少しマイナスのOという構図になっています。(このように電子に偏りがある分子を極性分子と言います。)


 そして、ある分子の集合体が、この少しプラスのHや少しマイナスのOに電気的に囲まれて、一つひとつの分子に離れた状態を、水に溶けた状態と言います。(以下の図)

極性分子が、水に溶けている様子
極性分子が水に溶けている状態。細長い囲みが、極性分子。

 このように、水に電気的に囲まれるには、囲まれる側の分子にも、電気的な性質がないといけません。要するに、極性分子(またはイオン)でないといけません。

エタノールのーOH部分は、水の時と同じように、Oが少しマイナス、Hが少しプラスになっているので、極性があります。

 よってこの部分を利用して、エタノールは水分子に囲まれることができます。

一方で、CーCは同じ元素同士の結合なので、電子はどっちにも偏りません。

また、C:炭素は中心に陽子を6個持っており、水素よりは多いですが、元素の大きさの関係で、水素よりも、炭素の方が中心にある陽子から電子までの距離が遠くにあるため、陽子の数の多さと遠さが打ち消し合い、電子を引っ張る力は、水素とほとんど同じになっています。そのため、CーH結合でも電子の偏りはないことがわかっています。

そのため、C2H5部分は疎水性=水に溶けない部分になっています。


この電子の偏りの原因となっている、それぞれの元素が電子を引き寄せる力を「電気陰性度」と呼びます。

(参考:元素周期表と電気陰性度(Wikipediaより))

電気陰性度
元素周期表と電気陰性度。下の数字が電気陰性度の大きさ

 さて、次に、脂質が水に溶けない、という話ですが、この話はほとんど終わっていて、脂質がCーH結合を主に持った分子だからです。

一部OHを持っていますが、エタノールと違い、CーCの結合やCーHの結合が2個どころではなく、何十個も並んだのが脂肪です。そのため、OHによる電気の偏りは無視できるほど小さく、全体で見ると、脂肪は電気の偏りのない分子ということになり、水分子同士の電気的な引き合いの中に入っていくことができず、水に溶けないわけです。

(参考:脂肪の主な分類と構造式。構造の違いで、融点に違いも出てくる。)

脂肪酸の構造式
脂肪酸の構造式。飽和脂肪酸とトランス脂肪酸は、融点が高く、摂りすぎはは良くない。

 そして、水に溶けない脂質のような分子(このような分子を無極性分子と言います。)は分子同士で電気的に引き合わないので、他の無極性の分子と自然と混ざっていき、溶けることができます。

要するに、脂質のような、無極性分子は、水のような極性分子の液体に溶けることができませんが、無極性の液体の中では、自然と溶けることができます。


・「なぜそれでウイルスを倒せるのか」

 さて、やっとここまで来ました。

 アルコールは電気的偏りの少ないCHの部分と電気的偏りのあるOHの部分が半々なので、電気的偏りがあると溶ける水にも溶けるし、電気的偏りがないと溶かすことができる脂質を溶かすこともできます。


 ウイルスには大きく分けて二つの種類があります。脂質でできた膜で囲まれたタイプと、そのような膜を持っていないタイプです。

 脂質でできた膜はアルコールに溶けます。アルコールに溶けるときにアルコール分子には、電気的偏りのあるOH部分があるため、電気的力によって脂質を囲み込む形になります。(界面活性剤と同じです。)

それにより、脂質でできた膜は、バラバラになり、中身が露わになり、ウイルスは倒されるのです。

 脂質でできた膜を持ったウイルスとしては、今回流行している新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスがあります。なのでこれらには、アルコール消毒が有効になります。


 一方で、脂質でできた膜を持っていないタイプのウイルス(ノロウイルスなど)には、アルコールは無効です。

このようなウイルス(ノンエンベロープウイルスと言います。)には次亜塩素酸やイソジンが有効です。


2.次亜塩素酸とイソジン

 アルコールの次に、今普及したのが次亜塩素酸ではないでしょうか。そして、大阪府知事の記者会見の影響で注目を浴びたのがイソジンです。

この項では、次亜塩素酸やイソジンがなぜウイルス退治に有効なのか、という話をします。

 

 そのために、「膜に囲まれたウイルスの内側がなんなのか」、という話から、「次亜塩素酸とイソジン(ヨウ素)の話」を経由しようと思います。

また、その後、イソジンの会見の真相について、「ひるおび」で見た研究者本人の解説をもとに説明します。


・「膜に囲まれたウイルスの内側がなんなのか」

 まずウイルスは、自分で自分自身を複製することができません。自分一人では増えていけないのです。

ウイルスは生き物の細胞の中に入ることで、自信が持っているDNAまたはRNAを細胞の力を力を使って複製させ、増殖していくのです。

 このように、ウイルスは、DNAまたはRNAとそれを囲むカプシドと呼ばれるタンパク質の殻だけで構成されています。

それをさらに脂質でできた膜で囲んだものか、その膜がないものに分かれるわけです。


 要するに、内側にあるのは、タンパク質とDNA又はRNAです。

こいつらを壊すことができれば、ノンエンベロープウイルスにも勝つことができます。


・「次亜塩素酸とイソジン(ヨウ素)の話」

 さて、次亜塩素酸とイソジンはどのようにタンパク質やDNA・RNAを壊すのでしょうか。

 

 次亜塩素酸の構造式はHClOです。これが水中では、水酸化イオンOH-と塩素ラジカルCl+に分離して溶けます。

本来塩素Clは塩素イオンCl-が安定しています。そのため、すぐに塩素ラジカルCl+は周りから電子を二つ奪います。

これを酸化反応と言いますが、この電子を奪うことにより、タンパク質やDNA・RNAを破壊することができます。電子が奪われると、電気的な状態が変化し、分解されたり形が変わったり、もはや違うものになるからです。

また、次亜塩素酸は脂質でできた膜を浸透していくので、膜を持ったタイプのウイルスにも有効です。


 イソジンに含まれるヨウ素も同じように酸化作用によって、ウイルスを撃退してくれているようです。


・「イソジンの会見の話」

 ここまで、アルコールや次亜塩素酸などが何でウイルスに効くのか、という話をしてきました。

多くの人は、なぜこれらがウイルスに有効なのか、というのをいちいち気にしないのでは、と思います。

テレビで専門家が言っているからそうなのだろう、で済ますことが多いでしょう。

それでも基本的には困りません。テレビに良識がある場合は。


 しかし、テレビの報道も必ず正しいとは限りません。

なぜなら、テレビ会社は公共放送を除き民間企業であるため、第一に視聴率を高くし、広告収入をたくさん得る必要が出てくるので、正しさよりも、注目度を優先しがちになるからです。


 いろんな番組を見てる限り、テレビ業界に科学の素養の高い人は少ないのではないかと思います。

そして、今回のコロナのように、科学による研究の真っ最中のものについては、研究者間でも意見が分かれたり、まだ十分に検証されていないものなどが多くあります。

そんな中、専門家を呼んで意見を聞いたからと言って、その専門家の意見はまだ確立していないものの可能性もありますので、テレビでの専門家の発言が必ず正しいとは限らないのです。


 以上のように、テレビから得た情報をそのまま考えずに受け止めていては、ダメです。それは本当なのか、どこまで検証されているのか、なぜそのようなことが言えるのか、など科学的に思考する癖を持つことが大切です。

また、それが正しい情報だったとして、科学的思考で、なぜそれが正しいのか、を考え、調べたりしていれば、応用も自分でできるようになります。


 さて、先日、大阪府知事と大阪市長の共同会見で、イソジンがコロナに効くといった発表がありました。

この発表を聞いたとき、私はこの政治家らに大変憤りを感じました。そして、この発表に踊らされて、イソジンを買いに動いてしまう人がいる日本社会を見て、科学教育の無力さを感じました。


 この発表の次の日に、ある番組で、当該研究をまさに行った研究者がリモートで出演していました。

その話をもとに、今回の研究成果の話をまとめると、以下の通りです。

・軽症、無症状患者41名を対象に実験。サンプル数も少ないため、今後増やしていく。

・イソジンは口腔内のコロナウイルスを減らす、というデータが得られた。

・あくまで、口腔内であり、体内に侵入したウイルスを倒すものではないため、治療薬ではない。

・どうやら、新型コロナは、口腔内でウイルスが増殖しやすく、そのため、唾液に多くのウイルスが含まれるので、唾液でPCR検査ができる、という特徴がある。軽症や無症状患者も、唾液が誤って気管に入って重症の肺炎になってしまう可能性があるため、イソジンによるうがいで口腔内のウイルスを減らすことで、重症化リスクを下げる可能性がある。(予測であり、データなし。)

・また、他人に移すのも唾液による可能性が高いため、軽症者、無症状患者がイソジンでうがいすることで、医療従事者への感染リスクを下げられる可能性がある。

・今回は患者に対して行ったため、予防の効果は確かめられていない。イソジンは、口腔内の常在菌も倒してしまうため、予防として定期的にやると、むしろ感染リスクを高めてしまう可能性もある。

・実験において、イソジンのうがいをした群の対称群には、水によるうがいの制限はかけていない。少し水でうがいした人もいるかもしれないし、うがいをそもそもしていない人もいるかもしれない。

・水によるうがいを毎日6時間おきに行う群との比較も今後行いたい。水によるうがいだけで効果がある可能性もある。


 上記の通り、今回のイソジンは予防効果もあるかわからず、むしろ逆効果の可能性もあり、患者が使っても、重症化や他人への感染を抑える可能性があるだけで、治療薬ではない、さらには、水でも効果があるかもしれない、ということです。(サンプル数から、現時点ではすべて可能性、の話)


 「ひるおび」で研究者の話を聞いた限りでは、確かに有意義な研究で、もう少し検証を進める価値のあるものだと思いました。しかし、まだ検証の段階だ、ということや、使うべきは患者であり、一般国民に伝える必要がない情報だ、という理解をする能力がないような政治家が発信するべきものではありませんでした。


 そして、一部の国民は、会見の内容を聞いて、買いに動いてしまいました。

感染していない人が使う必要はなく、むしろイソジンが本当に効くとした場合に必要となるのは医療機関なのに。


 買いに行ってしまった人には、大きく分けて三つタイプがいると思います。

・本当に効くんだと思い、買ってしまった人。

・高額で転売できると企んだ人。

・普段から使用してるけど、品薄になりそうだから、買い増しておこうと思った人。


 一つ目の人は、もっと科学的思考で、報道にも疑問を持つ癖を持って欲しいです。

そして二つ目、三つ目の人たちは、一つ目のような人たちが世の中に多いんだという認識による行動だと思います。

世の中の認識はメディアの報道を通してされることが多いです。なので、薬局で品薄になっている、という報道をしたメディアにより、二つ目、三つ目の人たちが増殖していくのです。


 会見の日の夜のニュースゼロでもこの会見と品薄の状況を報道していましたが、出演されていた落合陽一さんは、この話についてふられた際に、この話題はあまり報道しない方がいいので、早く次の話題にいきましょう、とコメントしていました。さすがです。



3.まとめ

 長々と書きましたが、結論として、マスメディアの情報の質はかなり偏っており悪い(特に科学分野)という印象です。そのため、自分たちで、しっかりと科学的思考をする癖をつけることで、ただ報道の内容を信じる人たちよりも、より豊かな生活を享受することができると思います。


 メディアの報道だけを信じている人たちが知らない裏技や真実を、科学によって知ることができる。

これは一つ謎解きのツールのようなものです。

その点で、科学的思考を身につけることは、日常をエンタメ化することにつながるのかもしれません。


実際、私は日常のいろんな情報に触れて、それの真偽を確かめたり、応用してみたりすることが楽しいと感じます。


この点では、科学エンタメ化計画というより、科学による日常エンタメ化計画という方が適切かもしれません!

Let's make our life entertainment with science!


おしまい








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